5th.STAGE 『ナラボー平原越え』
ノースマン → セドゥナ
(1219km行程予想日数10〜14日)
日時2009年5月12日午前10:00スタート
このステージは『水場探し』の旅になると思うんだ。いかに水を切らさずに、この平原ルートを進むか……
さあスタートですッ!
本日の走行距離:89q 総走行距離:1390Km
ナラボー平原を横一文字に貫くハイウェイは、このナラボー平原を初めて陸路で横断した探検家エドワード・ジョン・エアー(Edward John Eyre)にちなんで、エアーハイウェイ(Eyre Highway)と呼ばれている。ノースマンから始まり、ポートオーガスタまで続くこの道に、この日からいよいよ踏み出すことになった。
オンサイトバンで寒さに耐えながら寝ていた昨晩とは一転して、ノースマンの町を出ると途端に熱気が強まった。たかってくるハエの数も心なしか増した気がする。
朝方なにか空気が少ないような気がしていたが、しだいにタイヤが平たくなっていくのを感じ、路傍の空き地で自転車を駐めて確認した。―――見覚えのある棘がタイヤに突き刺さっている。パースから1300qも離れた場所でマキビシ草に遭遇。町中を観光していたときにどこかで踏んだに違いなかった。穴を塞ぎ、他に漏れがないか空気を入れて確かめて見るが、案の定もうひとつ穴が空いていた。マキビシ草のトゲ種子は広範囲に散らばっているので、トゲが複数回ヒットしていることがよくある。
夕暮れまで走るがレストエリアのあるタイミングがわからない。やむなく路傍の林の中にキャンプを張る。ごつごつとした石ころが無数に転がっている地面の寝心地はけっして良くはなかった。
本日の走行距離:86q 総走行距離:1476Km
朝起きると、まずはタイヤをチェックする。フラットになっているかもしれない。とくに問題ないようだったのでキャンプの撤収にかかった。露で濡れたテントをそのままスタッフバッグに押し込むのは躊躇われるが、この日の濡れ具合はまだマシなほうだった。
ブッシュキャンプを撤収してほんの2キロほど走るとレストエリアがあった。悔しいことだが、わざわざ茂みにキャンプを張らなくても良い場所がすぐ近くにあったのだ。
しかし、しばらく走るとまたもやタイヤの空気が抜けていく。これはいつものアレだ。そう、マキビシ草だッ! 調べると、折れたトゲの先がタイヤの中に残っていて、タイヤが減って薄くなるにつれて裏側に貫通してきたようだった。表側からは深々と刺さりすぎていたのでトゲを抜くことはできず、裏側からわずかに出ていたその先端をカットするくらいしか処置がとれなかった。2箇所にパッチを当てるも、まだどこからか抜けているもようだったので、念のためチューブを交換することに。このせいで、また修理に時間をとられることになった。
予定していたバラドニア・ロードハウス(Balladonia Roadhouse)には日暮れまでに辿り着けず、結局その25km手前のレストエリアでキャンプを張ることにした。焚き火で湯を沸かし、友人から譲り受けていたα化米の炊き込みおこわを食べる。しょうゆの香りがたまらない。これによって、パンク続きで弱っていた心の力をなんとか回復することができた。旅立つ時にこれを託してくれた友人に感謝だ。
夜はとても寒くて、体にアルミのエマージェンシーシートを巻き付けた状態で寝袋に入って眠った。およそ同じくらいの時期にナラボーを旅していた探検家エドワード・ジョン・エアー(Edward John Eyre)も寒さに悩まされたという。150年以上前のろくな装備もない徒歩の旅ではさぞかし苦労したことだろう。
本日の走行距離:139q 総走行距離:1615Km
バラドニア・ロードハウス(Balladonia Roadhouse)では、アメリカはカリフォルニアからやってきた自転車乗りの夫婦に出会う。彼らはブリスベンからゆっくりと時間をかけて西側までやってきたらしい。この先146.6kmの直線道路があるということや、低木しかない区間が長く続くのでブッシュキャンプはできないということを教えてもらう。ここでは水と食料を補給。ここではパスタや缶詰が買えるが、この先当分はビスケットやキャンディのような食料しか手に入らないらしい。
ここではナラボー平原に出現すると言われる謎の女性、ナラボーニンフについて説明しているパネルがあった。ナラボー平原、予想通り謎の多い土地のようだ。
146.6km直線の看板を通過。低木しかない荒れ地を一文字に道路が貫く。日暮れ時になってもキャンプのためのレストエリアが見あたらない。日が沈んでからもすぐに真っ暗になるわけではないが、真っ暗になるまでにテントの設営を済ましたい。なんとか、暗くなりきる前にレストエリアに到着しキャンプを張ることができた。
本日の走行距離:132q 総走行距離:1747Km
ブッシュの中にちらほらと謎の穴を見かける。ナラボーには洞窟が数多く存在するらしい。水タンクを見かけたので立ち寄ってみる。樋からタンクに水が落ちるようになっているようだ。水は普通に飲めようで、べつだん妙な味はしなかった。次のロードハウスまで30kmほどしかないので特に水をそこで汲む用事はない。ケイグナ(Caiguna)で休憩を取った後、Central Western Time Zone に入り、時計を45分進める。日が傾き出す頃にはコックルビディ(Cocklebiddy)に部屋をとりゆっくりと休息することができた。
本日の走行距離:91q 総走行距離:1838Km
Eyre Telegraph Station 過去に使われていたテレグラフ・ステーションの廃墟がダートを横道に35km逸れたところにあるらしい。興味はあるが、苦労して観光に行くにしてはあまりにもがっかり名所だろう。もちろんそんな場所に寄り道するわけもなく、一路Maduraへ向かう。眼下に広がるブッシュめがけて急な坂を滑り降り、Maduraに到着。ここで部屋をとり休息することに。
本日の走行距離:113q 総走行距離:1951Km
荷造りを終え、出発というときに、タイヤの空気が抜けて切っていることに気づく。またもやマキビシ草の棘のようだ。ところが、今回は棘を取り除こうにも、先が折れてタイヤの奥深くに棘が残されたままになってしまった。このタイヤを使用し続けることは今後も定期的にパンクを引き起こすことだと判断し、エスペランスで用意しておいた予備のタイヤに交換することにした。交換したスリックタイヤは好調で漕ぎが幾分か軽くなった。途中のレストエリアで謎のはぐれ牛を発見したり、道路上の謎の肉片を横目に見ながら日没とほぼ同時にMundurabillaへ到着、キャンプサイトを借りた。
本日の走行距離:108q 総走行距離:2059Km
マンドラビラ(Mundurabilla)のキャンプを撤収し、いよいよWA-SAのボーダーへと向かう。台湾人の親切な旅行者にお接待を受け、Eucla手前の坂を登る。ユークラ(Eucla)はナラボーの真ん中にある「町」だ。警察もあるし、それなりの食材も買えるし、民家もある。そこからたった12km先が州境になる。
SAからWAに入ってくるときは、Border Villageが検疫の場所になる。WAの検疫は大変厳しく、ここでは野菜を入れたことがあるならばたとえ段ボールや発砲スチロールの箱でも廃棄するように告げられる。WAからSAに出る場合にはセドゥナ(Ceduna)が検疫の場所となる。今回はSAへ向かうパターンなので、そのまま通過。少し休憩をとってからさらに先へと進む。断崖絶壁の海が右手に広がっていた。日暮れ時には海を望む広場にキャンプを設営。海風が強いものの他に場所がないので仕方ない。
本日の走行距離:160q 総走行距離:2219Km
海風と朝霧でビショビショになっていたが、霧が晴れたりテントが乾いたりすることを待っている時間はないので、スタッフバッグに詰め込んで出発。霧に虹が写っていた。「COOK 105」と書かれた看板から、遥か遠くの丘にめがけて細いダート道が伸びている。COOK? なんだこれは。どこに通じているというのだ? 地図を見てみると、大陸横断鉄道インディアン・パシフィック号の路線上にたしかに「COOK」と記載されている。かつて駅だった場所なのだろうか。この時はCOOKがどういう場所なのかは謎のままだった。
予定通り、日没と同じタイミングで「NULLABOR PLAIN WESTERN END OF TREELESS PLAIN」と書いてある看板を通過し、Nullabor Roadhouseに到着。ここにはナラボーを初めて横断したと言われる自転車と募金箱が置いてある。豪州巡礼の札所とすべき場所だろう。キャンプサイトを借り、テントを設営するが、地面のそう深くない場所に光ファイバーが通っているようで、ペグ打ちは禁止されている。
このロードハウスでは、数匹の薄汚い野良犬がオドオドとロードハウスの中を覗っていた。人が来るとびくりとなってちょろちょろと逃げだし、誰もいなくなるとロードハウスの入り口にしょぼしょぼと近づいてくる。ロードハウスの張り紙には、ディンゴがものを持っていくので、靴などは外に出しておかないようにと注意書きした張り紙があった。これを見てはじめてあの薄汚くしょぼくれた野良犬がディンゴということに気づいた。ディンゴといえば、子供に襲いかかったことがあると聞いていたし、ブラックジャック123話の「ディンゴ」では自分を手術している最中のブラックジャックを群れで襲撃していた。どちらかというとオオカミ的なイメージがあったのだが、実際はたんなる貧相な犬畜生でしかないようだ。夜になると、ディンゴの群れが競い合うようにあちこちでやかましく遠吠えしていた。「あのディンゴとかいう阿呆犬をぼくに近づけるなよな」
本日の走行距離:146q 総走行距離:2365Km
今日も朝はすさまじい結露と霧。ビショビショに濡れたテントをスタッフバッグに押し込み出発。ロードトレインが背後からやってくるが、その接近が濃い霧でまったく見えない。逆を言うと、ロードトレインからもこっちが見えないということ。安全のため警告灯を点滅させ、己の存在をアピールする。霧の中を走っているうちに「NULLABOR PLAIN EASTERN END OF TREELESS PLAIN」と書かれた看板を通過。本来のナラボー平原はごく短い距離で終わる。気温の上がった午後からは霧も晴れ、今や営業をしていないYalata Roadhouseの跡地を通過し先へと進む。このあたりはアボリジナルのコミュニティになっており、許可無くコミュニティに立ち入ることはできないようだ。
あと5kmのところで日が暮れて真っ暗になり、目の前を一条の流星が通り過ぎていった。Nandrooでテントサイトを借り、キャンプを設営するが、たちまちテントが結露の水滴で覆われる。雨が降った様子でもないのに、ロードハウスの前が水浸しになっていたのは、どうやらこのすさまじい結露によるものらしい。
本日の走行距離:155q 総走行距離:2520Km
今日も朝から濃霧。東に向かう道路には太陽がぼんやりと輝いている。このまま霧の中を走り続けていると、うっかり涅槃に辿り着いてしまうのではと思うくらいだ。Fowlers Bayへの横道を無視して通過し、ペノン(Penong)へと向かう。広大な草原にちらほらと家らしきものが見えるようになり、次第に人の生活する気配を感じるようになってくる。麦か何かを育てているようだった。風車がちらほらと目立つPenongは小さいながらも久々のまともな町だ。電柱を見かけるのも何日ぶりだろう。軽く休憩を済ましてさらに東へ進む。
セドゥナ(Ceduna)まで20kmを過ぎたあたりで日没を迎えるが、しばらく進むと遥か向こうに町の灯りが見えるようになってきた。暗がりの中をロードトレインが次々と追い抜いていく。踏切を越え、その奥に見える光は検疫所の明かりだ。
残り直線で600メートルッ!
だが真っ暗だッ!
過酷な自然地形ッ! 容赦のない気候条件ッ!
スタートから10日目
はるばる越えてきたぞッ!
行程1200km
ゴオォ――――ルッ
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